HINT02 EC事業者がいまやるべきこととは?ー物流のプロ10人からの提言 社内の業務を棚卸しをするべし
売上と顧客サービスを最大化する組織作り
「5,000円以上送料無料の限界」
売上最大化を達成するためのバリューチェーン体制を構築するには、業務を俯瞰して細分化し、各業務について内製するのかアウトソーシングするのか整理する。並行して、下記の各業務で発生するコストを洗い出す。
①宣伝費 | サイト作成費(写真撮影、モデル、文章作成、画像加工、サイトデザイン、商品登録)、広告出稿費(リスティング、バナー、アフィリエイト)、モール出店料やカートシステム費(基本料、売上連動料、決済費、各種オプション料) |
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②物流費 | 保管費、入荷作業費、ピッキング費、梱包費、梱包資材費、物流システム費、宅配費 |
③管理費(人件費) | 経営・企画、受注・入金管理、問い合わせやキャンセル対応 |
運営上必要なコストが算出できたら図1のように1商品にかかる総合コストを可視化する。原価構成の中で、物流費は12%。つまり、1注文当たりの平均単価が6,000円であれば、物流の目標費は720円以内ということになる。
物流費のうち、大半を占めるのが宅配便費だ。昨今の宅配会社における値上げ譲許や今後予想される展開を加味して宅配便費を大まかに計算してみると、3辺合計の輸送サイズが60cmから80cm程度の場合、発送地域により異なるが、最低でも平均400円前後と考えられる。つまり、 残り320円で宅配以外のすべてをまかなわなければならないということになる。
注文当たりの平均単価が5,000円になってしまうと、物流費を600円以内に抑えなければならず、宅配便費意外の費用が200円程度になってしまうため、購入者の送料負担や、宅配の手段をポスト投函型の郵便やネコポスなどに切り替える必要がある。
「5,000円以上送料無料」というのがこれまでの定番のようになっていたが、もはや現実的ではないことがわかるだろう。
それでも利益率10%
このような計算でも利益率はわずか10%。これを改善するためには、作業スタッフの人件費、倉庫保管費、資材費をさらに細分化していき、平均時給や坪単価の相場から比較し、首都圏以外の郊外に拠点を持つべきなのかなど、さまざまな角度から検討が必要になってくる。
さらに、1注文当たりの平均単価を上げられるのか、効率的な運用方法を見出すべきなのか、もっと原価率が安価な商材で勝負できるのかといった抜本的な議論が必要になる。
工程の「つながり」が鍵
物流課題に取り組むには、まず、商品開発から物流管理までの、「つながり」が分断されていないかを見直す必要がある。売上の最大化、サービスやコストの均衡化、業務の効率化を達成するためには、各部門の担当者が部門の垣根を超えて全体フローを意識し、お客様へお届けするまでの工程を把握する必要がある。
ただ、同時に1人が多岐にわたる業務を担うことにもつながるため、注力すべき役割とアウトソーシングする役割を見極めることも大切だ。
全体的なコスト最適化、ムダを省くコスト削減を実現するために、対症療法ではなく、それぞれの因果関係や内容によって課題を整理し、改善に取り組む必要がある。
企画・生産・仕入・発注 | 販売管理 | 需給需給調整 | 物流管理 | 請求・回収 | |
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現状業務 |
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課題 |
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解決策 | 基幹システムと発注データの連携 | 企画~生産の初期設備での販売計画の共有 | 在庫数値と販売数の連携 | 企画~生産の初期段階での販売計画の共有 | 月末の棚卸システムの見直し |
表1 顧客サービスの最大化を目指す体制の構築に向けた課題と解決策
課題と解決策を可視化
弊社では表1のように、各部門における現状業務を洗い出し、課題と解決策を可視化している。特に、物流課題に関しては宅配便費ばかりがクローズアップされるが、実際は事前の工程からさまざまな要因が重なり、結果としてコストがかさみ、サービスレベルが低下しているのだ。これを前提に課題を考えなければならない。
また、短期的な課題解決の目標を設定し、小さな効果であったとしても達成度を定量的に把握し、継続することが必要だ。
カスタマーサポートには能動的な姿勢が必要
しかし、効率化や最適化ばかりに視点が偏ると、本来目的とする顧客サービスの最大化が見失われてしまう。ルールに沿って運用することが前提だが、特にカスタマーサービスには能動的な意識が不可欠だ。
お客様からの声をつぶさに拾い上げ、そのご意見の背景を考える。その継続によって、 マニュアルにはない、臨機応変な対応でお客様に喜ばれるカスタマーサービスが実現する。
以前、弊社が運営しているECサイトで、お届けした商品の梱包方法についてお客様からうれしいツイートをいただいたことがあった。
あるキャラクター商品を発送した際、梱包方法にファンへの気配りを感じたという。梱包方法には特にマニュアル化はしていないのだが、作業担当者のちょっとした配慮がお客様の心に響いたようだ。
このような好例はマニュアルに落とし込むのではなく、お客様の声として共有し、作業担当者の能動的な意識をかき立てるように情報共有する。
最終的には、さまざまな人的サービスが交わる中で体制が構築されるため、関わっているスタッフ全員の意識をかえていく努力が全体の「つながり」を生むと考えている。